あなたは何番がお好き?作曲家別交響曲ランキング第4回 チャイコフスキー
2024.11.21 特集 連載
本当に人気の高い交響曲はどれなのか。本連載では主要作曲家たちの交響曲について、録音と演奏会の両面からランキングを探っている。第4回はチャイコフスキーだ。
チャイコフスキーの交響曲ははっきりと人気の高い曲とそれ以外に二分できる。人気曲は交響曲第4番、第5番、第6番「悲愴」の3曲。それ以外はたまにしか演奏されない曲であり、通好みする曲でもある。
しかしナンバーワンがどれかといえば、答えは簡単ではない。第5番なのか、第6番「悲愴」なのか。これは難問だ。なにしろどちらも究極の名曲である。わかりやすく盛り上がるのは第5番、でも作曲者の代表作と言われたら第6番「悲愴」を挙げたくなるような気もする。うーん、どっちだ。
それでは、正解を発表します! レコーディング数ランキングの第1位は第6番「悲愴」! 堂々206タイトルがリリース。第2位は第5番で183タイトル、第3位は第4番で150タイトル。はっきりと順位が出た。納得の結果だろう。
だが、演奏会でのランキングは少し順位が異なる。第1位は第5番なのだ。これに続くのが第2位の第4番、そして第3位の第6番「悲愴」。もしやこれはブラームスの回と同様、「演奏会ではラストが盛り上がる曲が好まれる」法則が発動しているのでは。第5番はブラボー必至の名曲。第4番のフィナーレも熱狂的だ。ただし、3曲の上演回数はそれぞれ39回、37回、34回。11年間の統計と考えると、その差は驚くほど小さく、「3曲の人気は同程度」とも解釈できる。いずれにせよ、レコーディング数ランキングに比べて、第4番の健闘ぶりが目立つ。
メジャー3曲以外はレコーディングでも演奏会でもぐっと数が減ってしまうが、下位の順位も興味深い。とくに「マンフレッド交響曲」。番号が付いていないからなのか、CDの「チャイコフスキー交響曲全集」にはこの曲が含まれないことが多い。そのためレコーディングでは最下位になってしまうが、演奏会では第5位と意外とがんばっている。指揮者によってはこの曲を好む人もいるようだ。人によってもっとも評価がわかれるのがこの曲かも。
ちなみに本誌編集担当のSさんとHさんにいちばん好きな作品を挙げてもらったところ、ふたりとも第4番で意見が一致した。Sさんいわく「第4番→第5番→第6番の順で好きだけど、ときどき第1番が乱入する」とか。たしかに第1番には捨てがたい魅力がある。ワタシは迷った末に第6番推し。演奏会で長く記憶に残る名演は第6番が多いので。
ジュピター209号掲載記事(2024年11月14日発行)
プロフィール
音楽ジャーナリスト
飯尾洋一
音楽ジャーナリスト。著書に『マンガで教養 やさしいクラシック』(朝日新聞出版)、『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』(三笠書房)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)他。テレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザー、ANA機内プログラム「旅するクラシック」監修。ブログ発信中。