いずみシンフォニエッタ大阪 川島素晴インタビュー<br>プログラム・アドバイザーの役割から見るいずみシンフォニエッタ大阪の「これまで」と「これから」。

いずみシンフォニエッタ大阪 川島素晴インタビュー
プログラム・アドバイザーの役割から見るいずみシンフォニエッタ大阪の「これまで」と「これから」。

2024.11.21 インタビュー 特集 逢坂 聖也

幅広い音楽的知見をもとに、演奏作品の選考からメディアを駆使しての楽曲解説、さらには編曲から作曲まで。いずみシンフォニエッタ大阪の頭脳として活躍するのがプログラム・アドバイザーの川島素晴だ。西村 朗、飯森範親とともに歩んだこれまで、そしてこれからのいずみシンフォニエッタ大阪の展望を、第53回定期の話題をまじえて訊いた。

現代音楽をいかに楽しんで聴かせるか

まず川島さんの役割。その面白さや苦労などについてうかがいたいと思います。

演奏作品として何を取り上げるか、その資料を準備して運営会議で提案するというのが私の主たる役割です。年2回、会議が行われて関係者で演目について話し合うんですが、人によってやはり志向するものが違うんですね。飯森さんやメンバーの方はお客さまの目線ということを大事にしようとされるし、そこへ私が作曲家目線で現代の最先端のものを持って来たりすると、どうもみなさん難色を示される…(笑)。そのせめぎ合いみたいなものは常にあるわけです。ただ私はこれは大切なプロセスだと思っていて、というのはいずみシンフォニエッタ大阪自体はバリバリの現代音楽プロパー集団というわけではなくて、いかにそれを楽しんで聴いていただけるかということに主眼が置かれているし、また「近代」という視点も重要視しています。このせめぎ合いがあることによってプログラムに厚みが出て、結果、それがオケの個性につながっていると思うんですね。ただ1つ申し上げるとこのオケは1管編成の上に弦の数が5,4,3,2,1。これで演奏できる作品というと非常に限られます。その中でよくこれだけの作品を選んで来たなという思いはありますね。

長年の信頼関係があるからこその離れ業

ロマン派や古典派の一部はまず対応できない編成ということですね。そこで川島さんの「編曲」が重要になって来る。

ひと口に編曲と言ってもリサイズそのものを目的とした場合と、何らかの創造性を求められる場合で難易度が変わって来ます。と同時にオケのメンバーそれぞれに関わる比重が違ってくる。例えばバルトークの『管弦楽のための協奏曲』を取り上げた時はそもそも楽器の数が足りないわけで、それを1人の奏者の一瞬の持ち替えでやらなきゃいけない。「この人5秒前までオーボエのソロ吹いてたのに、今、イングリッシュホルン吹いてるよ!」みたいなことが起こるわけです(笑)。その点、私がすごく恵まれていると思うのが、座付きのオケなので奏者の方の表情まで想像しながら編曲できるということ。さらにいずみホールの素晴らしいの響きの中で、本番まで3日の練習で、それを試せるということなんです。これはこのオケならではの強みだと思います。

企てに満ちた世界の現代音楽ショーケース

第53回定期のタイトルは「五大陸」です。どんな演奏会になりそうですか。

意識したのは"万博イヤー"です。とは言え、万博が議題に上がってきた時点で世界はかなりきな臭い状況になって来ていたので、そこに音楽によってある種の多様性というか、世界が平等に存在することの意味を示したいというのが1つのテーマになりました。だから全体としては世界各国の現代音楽のショーケースみたいなものになると思うんですが、ここにもいずみシンフォニエッタ大阪ならではの裏テーマがあって、それがブーレーズ生誕100年。私自身が現代音楽の作曲家として、こうした作品も取り上げておきたいと思ったわけです。先ほどお話したせめぎ合いの部分とも関係してくるんですが、全体の中でけっこううまくはまっているような感じもあって、今回、5曲もある中でヨーロッパの前衛音楽のある種のエッセンスをぎゅっと聴かせるターンになれば良いかな、と。

「関西若手作曲家委嘱プロジェクト」の室元拓人さんの新作も目を惹きます。

室元さんは日本のみならずアジア全体に視野を置きながら、特定の宗教的儀式とか民族的な風習とか、そういったものに取材して作曲するということをやってこられた方です。今回も全体のテーマにふさわしい形で、世界の中のアジアというローカリティを持った方向から音楽を創り上げる、というようなことをやってくれるのではないかと期待しています。実に緻密な譜面を書く人で2022年には武満徹作曲賞を受賞されているんですが、この時の審査員がブライアン・ファーニホウ。あの複雑さで有名なファーニホウが認めた日本の才能と言えるでしょう。

25年間絶やさずに続けられた。 それこそ西村 朗の眼力

西村 朗さんとの思い出をうかがえますか?

2000年当時、いずみシンフォニエッタ大阪がまだプレの時に、いずみホールと紀尾井ホールと三井住友海上しらかわホールで、ベテランと若手作曲家に新作を委嘱する3ホール共同委嘱シリーズというのがあったんです。それで西村さんの委嘱作品の演奏会が紀尾井ホールであって、翌年は私が委嘱を受けることが決まっていたので私もその場にいたんですね。演奏会後、ロビーにいたら西村さんがやって来て「来年、またこのくらいの編成で演奏するんだけど、どんな作品がいいと思う?」って話しかけられたんです。それで私は指揮者が倒れるカーゲルの『フィナーレ』という作品がある、と申し上げました。西村さんは「面白いねえ。それをやろう」と。それがいずみシンフォニエッタ大阪の第1回のプログラムで、私が西村さんとこのオケに関わった最初でした。で、それから20年以上、ご一緒させていただいて、特にここの現場で一緒にお酒を飲みに行ったりとかがあったわけでもないんですが、作品解説などを通じて必然的に西村 朗を体験するというディープな面は常にありました。また、そういった私の仕事に対して西村さんから何か要望されるようなことはありませんでしたし、今にして思えばかなり信頼して任せていただいてたんだなあという気持ちがしています。

いずみシンフォニエッタ大阪のこれからについて教えてください。

いずみシンフォニエッタ大阪はもちろん続きます。まだ具体的には申せませんが、より世界的な視野で現代音楽に取り組むということ。そこに大阪発という要素をどんな風に反映させるかということなどが、今、話し合われています。とにかく歩みは止めないし、今回の「五大陸」にはこれからのいずみシンフォニエッタ大阪のヒントが詰まっているように思います。

 

ジュピター208号掲載記事(2024年9月11日発行)

プロフィール

作曲家/いずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドバイザー

川島素晴

東京都出身。東京藝術大学、同大学院修了。1992年、秋吉台国際作曲賞、1996年、ダルムシュタット・クラーニヒシュタイン音楽賞、1997年、芥川作曲賞、2009年、中島健蔵音楽賞、2017年、一柳慧コンテンポラリー賞等を受賞。1994年以来「演じる音楽」を提唱し「笑いの構造」に基づく創作を展開。作品は世界各地で上演されている。いずみシンフォニエッタ大阪プログラム・アドバイザー。一般社団法人 日本作曲家協議会 副会長。国立音楽大学及び大学院 准教授。

プロフィール

音楽ライター

逢坂聖也

大阪芸術大学卒業後、大手情報誌に勤務。映画を皮切りに音楽、演劇などの記事の執筆、配信を行う。2010年頃からクラシック音楽を中心とした執筆活動を開始。現在はフリーランスとして「音楽の友」「ぴあ」「関西音楽新聞」などのメディアに執筆するほか、ホールや各種演奏団体の会報誌に寄稿している。大阪府在住。

関連公演情報
いずみシンフォニエッタ大阪第53回定期演奏会「五大陸を巡るシン・音楽漫遊記」
2025.2/15(土) 16:00
15:30~ロビーコンサート
15:45~プレトーク

飯森範親(指揮)/古部賢一(オーボエ)/東口泰之(ファゴット)
いずみシンフォニエッタ大阪

P.ブーレーズ : Dérive I(ヨーロッパ)
H.ヴィラ=ロボス : ファゴットと弦楽合奏のための7つの音のシランダ(アメリカ)
カール・ヴァイン : オーボエ協奏曲(オーストラリア)
マイケル・ブレイク : クウェラ(アフリカ)【日本初演】
室元拓人 : 委嘱新作(関西出身若手作曲家委嘱プロジェクト第10弾)(アジア)

一般 ¥5,500 フレンズ ¥4,900 U-30 ¥1,000
ユースシート

助成:大阪市

公演情報はこちら
いずみシンフォニエッタ大阪第53回定期演奏会「五大陸を巡るシン・音楽漫遊記」