音楽と、風景と、身体と「ものがたり主義」

音楽と、風景と、身体と「ものがたり主義」

2024.03.22 エッセイ 堀朋平エッセイ

ポンペイ展とメキシコ展を観ました。昨年と一昨年、国立博物館でおこなわれていたイヴェントです。火山で滅びたポンペイでは、獣や鳥などの動物がすごくリアルなモザイクになっていて驚きました。うれしいことに撮影自由でしたので、今でも私のスマホの待ち受けでは2000年前のネコ様がこっちを見つめてきます。

メキシコ展では、2000年以上も続いたマヤ文明が印象的でした。こちらはむしろ明るい色のかわいい・・・・人形たちでいっぱい。一説によれば、「原因と結果」や「誕生⇨死」といったシンプルな線系ではなく、自然資源が豊かだったこともあって、すべてが連関しあう巨大なネットワークのなかに人間がたまたま生きている、といった世界観がマヤには浸透していたらしい。そんな悠久のフィギュアたちも、しっかりスマホに収めてきました。たまに眺めて癒されています。

でも、ひとつひとつの作品はていねいに解説されていたのですが、それぞれが独立してケースに収まっているので、ひとびとが浸っていたはずのリアルがあまり実感できませんでした。博物館なのだから当たり前かもしれませんけれど、モノから太古のひとびとの想いを再現する「感情史」の流れが、歴史学と交わる昨今です。「ちょっと訪れてみようかな」といった人のためにも、展示品が当時のひとの心をどんなふうに彩っていたのか、思い切って「ものがたられて」いたらもっと素敵だなぁ……などと妄想してしまいました。

音楽のコンサートでは、解説で「ものがたる」余地がたっぷり与えられています。アーティストが組んでくれたプログラムであれば、その狙いにめいっぱい・・・・・の想像をふくらませてみる。それがたとえ元の意図とちがっていたとしても、曲について考えるきっかけになれば、と前むきに。いろいろな意見がありそうですが、せっかく「演奏」「文字情報」(ときにはお話)というメディアたちが饗宴できる場なのだから、欲張ってお客さんに伝えてみたいと願っています。というわけで、コンサートにちょっとうるさそうな解説があったら、「お得感アリ」くらいに思って、どうぞお付き合いください。

ジュピター205号掲載記事(2024年3月13日発行)

プロフィール

Tomohei Hori

堀 朋平

住友生命いずみホール音楽アドバイザー。国立音楽大学・九州大学ほか非常勤講師。東京大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。『わが友、シューベルト』(アルテスパブリッシング、2023年)で令和5年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(評論部門)受賞。著書『〈フランツ・シューベルト〉の誕生――喪失と再生のオデュッセイ』(法政大学出版局、2016年)、共著『バッハ キーワード事典』(春秋社、2012年)、訳書ヒンリヒセン『フランツ・シューベルト』(アルテスパブリッシング、2017年)、共訳書バドゥーラ=スコダ『新版 モーツァルト――演奏法と解釈』(音楽之友社、2016年)、ボンズ『ベートーヴェン症候群』(春秋社、2022年)など。

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