世界初演を軸とした、意欲的プログラム!楽団の原点と、公演の魅力を語る。

世界初演を軸とした、意欲的プログラム!楽団の原点と、公演の魅力を語る。

2023.03.23 インタビュー 特別対談

住友生命いずみホールが世界に誇るレジデント・オーケストラ〈いずみシンフォニエッタ大阪〉が、今夏いよいよ第50回という節目の定期演奏会を迎えます。現代音楽の演奏を目的にした1管編成の室内オーケストラとして2000年に結成されて以来、関西在住・出身など地元ゆかりのメンバーたちが、毎回ユニークな選曲で聴き手の好奇心を刺激し続けてきました。
第50回定期は、キリの良い数字にちなんだプログラム。生誕100年のリゲティ、生誕90年のペンデレツキ、生誕80年の池辺晋一郎の傑作たちに加えて、生誕70年を迎える音楽監督・西村朗は新作〈ヴァイオリン、ハープ、クラリネットと管弦楽のための三重協奏曲〉を書き下ろして世界初演!····今回も力のこもった選曲を、生誕60年となる常任指揮者・飯森範親が指揮します。
この記念すべきコンサートに向けて、楽団創設以来、音楽監督と常任指揮者を続けてきた西村朗・飯森範親の両マエストロにお話を伺いました。

西村朗の新作〈三重協奏曲〉、その新たな音宇宙!

――いずみシンフォニエッタ大阪は、作曲家を音楽監督に迎えている日本唯一のオーケストラでもありますが、その西村朗さんの作品も数々取りあげてきました。今夏の第50回定期では新作〈三重協奏曲〉が世界初演ということで、愉しみです。

西村朗「単にソリスト3人の協奏曲というよりは、ソリストそれぞれがオーケストラの各セクションをひき連れているリーダー的な存在、という感じですね。独奏ヴァイオリンはその後ろにオーケストラの弦楽をひき連れていて、独奏ハープは同じく打楽器やピアノを、そして独奏クラリネットが管楽器をひき連れて、と3つの小グループがある。室内楽的な世界の延長線上にある協奏的な世界、と言えますね。‥‥そのソリストたちが協奏するだけでなく、ソリストとその後ろのセクションも協奏するという、二重の協奏的な世界が立体感を強調していきますが、それが最後に融合するのか、対立するのかは‥‥わかりません」

――この三重協奏曲には今後、新たにタイトルがつく可能性もありましょうか。

西村「若い頃は〈自分と宇宙の関係〉など考えていたんですが、いま最大の関心は〈いい死に方ができるかどうか〉にあって、それは〈最後、いい生き方ができるかどうか〉に連動している。たとえば最近の作品で、〈オーケストラのための《華開世界》〉[2020年/第69回尾高賞受賞]でも、世界は刻々と開花して生まれてゆく・・・・という道元禅師の言葉[『正法眼蔵』梅華の巻に拠る]からタイトルをつけたんですが、この言葉は僕にとって救いだった。連鎖のなか、宇宙のありように自分が抱かれている、という安心感ですね。今度の新作でも、タイトルがついたとして、自分に残された時間と、永遠の時間との一体感の繋がり‥‥といったものになりやすいとは思います」

出発の原体験を共有しながら

――いずみシンフォニエッタ大阪は、2000年7月にデビュー・コンサート、翌2001年2月に定期演奏会が始まりました。この22年間で蓄積されてきたものは、本当に大きいですね。

飯森範親「毎回の勉強はもの凄く大変ですけど(笑)、常任指揮者をずっと続けて来たことが、今の自分の中でも多くの部分を占めていると実感します。もの凄く大きな財産になっていますね。僕も今年で還暦を迎えますが、永遠ではない自分の存在、という現実を身にしみて思い知らされる瞬間が増えている。自分が死んだ後に何が残せるか‥‥と考えたとき、素晴らしい作品となる可能性のある新作を初演し続けてゆくことは、自分にとっての義務だろうな、と」

――第1回定期演奏会[2001年2月]は、飯森さんのお母様が亡くなられた数日後にリハーサルと本番があったと伺っています。

西村「最初のリハーサルの時、皆で黙祷しましたね。ご不幸ではありましたが、オーケストラにああいう起点があったことは、スタートとしては非常に重い意味があると、僕は今でも思っている。あの時の演奏も、ちょっと普通じゃなかった。カーゲル《フィナーレ》[曲の途中で指揮者が倒れて運ばれていく‥‥という〈演奏指示〉も含む問題作]など他では演らない作品も果敢に取りあげたあの初回から、どんなオーケストラにならなければいけないのか、運命づけられたと思います。そして、あの原体験を共有しながら続いていくべきだと思う。百年続くうなぎ屋のタレみたいに、起業者の魂が受け継がれていくわけでね」

デビュー・コンサート 2000/7/8

デビュー・コンサート 2000/7/8

素晴らしい安定感、絶えざる挑戦への意欲

――継続されてきたオーケストラとしての、確かな安定感も強く感じられるようになりました。

飯森「それは、小栗まち絵さん[ソロ・コンサートマスター]のおかげでもあると思います。より若い奏者のかたをコンサートマスターにおいて、小栗さんが後ろにいらっしゃったりすることもありますが、その存在は大きくて、そのことによっていい意味で音楽的な緊張感が保たれている。そして、メンバーの皆がこのオーケストラがどういうものか、良く分かっているし、初めて参加されるかたがいても準備に余念がなく、練習初日からすぐに音楽的なディスカッションが始まる」

西村「ホールも含めて、パトロンがずっと変わらず包み込んで支えて下さってきた、それがオーケストラの大きな栄養源になっている」

飯森「川島素晴さん[プログラム・アドバイザー]の存在も大事。僕なんか全然かなわないほどの〈歩く音楽事典〉ですし、新作の〆切さえ守ってくれれば本当に凄い音楽家なんですよ!(笑)」

――どんなに演奏至難な作品でも、演奏から一貫して〈作品に対する敬意〉を感じられるのは、聴き手にとっても嬉しいことです。

飯森「でしょう?長く一緒にやらせていただいているのは、まさに〈作品に対する敬意〉じゃないかなぁ」

西村「ついて来て下さる聴衆のかたたちも、鑑賞力が高いですよね。これは我々の誇りですし、そこに応えていきたい。〈心の力〉というものを僕自身も衰えさせず、飯森マエストロ、川島さん、メンバーと共有しながら、ますます同志として気持ちを通い合わせて進んでいきたいなと。今後もルーティンにはならないと思うんですよ。難しすぎて(笑)」

飯森「なりようがない!(笑)こんな凄い体験ができる団体が、この大阪に有るというのは誇りだし、日本の財産だと思います」


西村 朗 Akira Nishimura

東京芸術大学卒業。同大学院修了。日本音楽コンクール作曲部門第1位を初め、 数々の賞を受賞。エリザベート国際音楽コンクール作曲部門大賞、ルイジ・ダルッラ ピッコラ作曲賞、尾高賞を6回、中島健蔵音楽賞、京都音楽賞 [実践部門賞]、エク ソンモービル音楽賞、第3回別宮賞、第36回サントリー音楽賞、第47回毎日芸術賞。 2013年紫綬褒章を受章。 2000年よりいずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督。2010年より草津夏期国際音楽祭音楽監督。 2019年2月には、新国立劇場6年ぶりとなる創作委嘱作品世界初演「紫苑物語」が大野和士の指揮で上演され、大成功を収める。現在、東京音楽大学教授。

飯森 範親 Norichika Iimori
桐朋学園大学指揮科卒業。いずみシンフォニエッタ大阪常任指揮者。2006年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。現在、パシフィックフィルハーモニア東京音楽監督、日本センチュリー交響楽団首席指揮者、山形交響楽団桂冠指揮者、東京佼成ウインドオーケストラ首席客演指揮者、中部フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者。2023年4月より群馬交響楽団常任指揮者に就任予定。2020年10月、新国立劇場のシーズンオープニング公演であるブリテンのオペラ「夏の夜の夢」を指揮、好評を博し大成功を収めた。
オフィシャル・ホームページ
http://iimori-norichika.com

プロフィール

ライター[音楽・舞踊評論]

山野雄大

『レコード芸術』『バンドジャーナル』など雑誌・新聞での執筆、インタビュー取材をはじめ、NHK・FM「オペラ・ファンタスティカ」他ラジオ・テレビ出演も。第一生命ホールでのコンサートシリーズ《雄大と行く 昼の音楽さんぽ》ナビゲーターを務めたほか、コンサート解説、歌詞対訳、ONTOMO MOOK『バレエ音楽がわかる本』など寄稿あれこれ。日本製鉄音楽賞選考委員ほか。

関連公演情報
新・音楽の未来への旅シリーズ いずみシンフォニエッタ大阪 第50回定期演奏会 「50回記念 ―生誕60,70,80,90,100年特集」
2023年7月8日(土) 開場 15:15

プレコンサート 15:30/プレトーク 15:45
開演 16:00
【出演者】
飯森 範親(指揮)、菊本 和昭(トランペット)
小栗 まち絵(ヴァイオリン)、篠﨑 和子(ハープ)、上田 希(クラリネット)
【演奏曲目】
生誕100年
G.リゲティ:ミステリー・オブ・マカーブル(1991)
※トランペット:菊本 和昭
生誕90年
K.ペンデレツキ:弦楽のためのシンフォニエッタ(1990/1991)
生誕80年
池辺 晋一郎:降り注ぐ・・・
――室内オーケストラのために(2005)
生誕70年
西村 朗:ヴァイオリン、ハープ、クラリネットと管弦楽のための三重協奏曲(2023)
世界初演/いずみシンフォニエッタ大阪、東京シンフォニエッタ共同委嘱
※ヴァイオリン:小栗 まち絵/ハープ:篠﨑 和子/クラリネット:上田 希

一般¥5,500 学生¥1,000

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新・音楽の未来への旅シリーズ いずみシンフォニエッタ大阪 第50回定期演奏会 「50回記念 ―生誕60,70,80,90,100年特集」
関連公演情報
新・音楽の未来への旅シリーズ いずみシンフォニエッタ大阪 第51回定期演奏会 「和洋感応 —愉悦の流域」
2024年2月10日(土) 開演 16:00

【出演者】飯森範親(指揮) 本條秀慈郎(三味線)
いずみシンフォニエッタ大阪
【演奏曲目】冷⽔乃栄流:委嘱新作(関西出身若手作曲家プロジェクト第9弾)
藤倉 大:三味線協奏曲
一柳 慧:室内交響曲「タイムカレント」(1986)

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