新・日本の響き「和のいずみ」</br>第2回 ゲスト津軽三味線奏者 上妻宏光インタビュー</br>革新者・上妻宏光の現在地

新・日本の響き「和のいずみ」
第2回 ゲスト津軽三味線奏者 上妻宏光インタビュー
革新者・上妻宏光の現在地

2024.06.28 インタビュー 磯島浩彰

箏奏者の片岡リサがプロデューサーを務める住友生命いずみホールの邦楽シリーズ「和のいずみ」に、津軽三味線の上妻宏光が登場する。もともとは津軽地方の民謡の伴奏楽器だった津軽三味線を、様々なコラボを経て人気の独奏楽器へと発展させた第一人者 上妻宏光が、大いに語ってくれた。

6歳の時に受けた衝撃

──津軽三味線を手にしたきっかけは。
6歳の時に父親が趣味で弾く津軽三味線の音に魅了されて、自分からやりたいと言いました。友達ともあまり遊ばず三味線ばかり弾いていたので、上達は早かったと思います。津軽三味線は弾く上での自由度が高いので、最初から自分なりのフレージングやグルーヴなどを追求していました。そのうちに、自分の実力はどの程度なのかを知りたくて、津軽三味線の競技会に出て、14歳の時に優勝。東京で高校に通いながら三味線の勉強をしました。

人一倍強かった三味線への愛

──他ジャンルの音楽とコラボしようという発想はどこから生まれたのでしょうか。
ごく一般的な歌謡曲やアニメソングを聴いて育ちましたが、4つ上の姉が洋楽好きだったので、僕もかなり影響を受けました。津軽三味線を西洋楽器と合わせるとどんなサウンドになるのか、そんなことばかり考えていました。当時はまだ本格的なコラボ演奏をする人はいなかった時代です。実は、津軽三味線の競技会で優勝しても、青森や津軽地方出身者でないと、本物の津軽三味線としては認められない、そんな風潮が残っていました。それが悔しくて、三味線も頑張って全国大会は2連覇し、民謡も聴き込みました。それは、後になって大事なことだったと気付きます。そんな時に、「六三四 Musashi」という宇崎竜童さんがやっていた竜童組の流れを汲むロックバンドから誘いを受け、邦楽器とハードロックを融合した音楽をやることになります。

──コード進行や和声、音楽理論などは、いつ勉強されたのですか。
実践で学びました。プレイしながら、ここで半音上げるとスパニッシュスケールなんだ、みたいな感じで発見の連続(笑)。洋楽を聴いていたからギターやドラムにジャストで合わせ、津軽三味線は即興が命ですから、ソロ回しにも対応出来たのではと。自分のルーツは津軽三味線や民謡だと思ってやって来て良かったです。海外などでプレイ中に、民謡、三味線のリズムや間を入れると、他の楽器では表現できないサウンドが生まれます。ペンタトニックという5音階の旋律は、アメリカのブルースにもスコットランドやアイルランド民謡にも、アルゼンチンタンゴにもあります。それを上手く使うと万国共通、どこでも通用する武器となります。

──色々な楽器とコラボされる上で大事にされている事はありますか。
相手の音楽に溶け込みたいという思いと、三味線が好きだという思いが主軸にあって、相手と会話するようにしています。僕はよく「リズムやグルーヴを捉えて演奏するのが上手い」と言っていただけることもあるのですが、昔から色々な音楽を聴いてきたことも影響しているのでしょう。「コイツは俺達の音楽に寄って来てくれている!」と相手に思わせることは大切です。周囲は、三味線サウンドを面白がってくれているように感じています。

──コラボというと、細棹三味線の本條秀太郎さんともアルバムで共演されています。
細棹と津軽三味線が共演する事は、まずありません。音のバランスが難しく、フレージングも違います。三味線の歴史を鑑みて、敬意を込めて弾かせて頂きました。そういう意味で、2014年には、現在の團十郎さんが海老蔵さんの時代ですが、「通し狂言 壽三升景清ことほいでみますかげきよ」の中で、歌舞伎の舞台で演奏しました。歌舞伎の歴史ある演目の中で三味線の演奏はありますが、津軽三味線の演奏は初めてだと思います。

伝統と革新、そしてその先へ

──津軽三味線は、楽器として進化していますか。
ボディにマイクを仕込んだエレキ三味線は、30年近く前に出始めましたが、僕が恐らく一番使っているはずです。ボディに穴をあけてテクニカルマイクを突っ込んでみたり、技術屋さんと色々改良を重ねました。左手のフレージングも工夫を凝らして、バチをブリッジ寄りに当てたり、指で直に弾いたり色々やって来ました。10年かけて作り上げた新しい表現方法も、若い人はYouTubeにアップすると半年で習得可能(笑)。でも、三味線の可能性が広がるのなら良い事だと思っています。

──上妻さんが築いた新しい邦楽の表現を、若い人たちも追随しているように見えますね。
演奏している立ち姿や音楽を聴けば、影響の度合いはわかります。それを突き詰めて行った先に個性は生まれるのでしょう。人気の「和楽器バンド」は、「六三四 Musashi」で長くボーヤ(付き人)やっていた和太鼓の黒流君がいるので、スタイルを受け継いでいるのは合点がいきましたが、そこに詩吟出身の女性ボーカルが加わってあのサウンドが誕生した。自分達の個性を鮮明に打ち出そうとアプローチの仕方を僕のスタイルとは変えているんだろうと思います。 津軽三味線は元々、目の不自由な方が即興音楽としてやって来た門付け芸。今後、若い世代へ繋げる為にも口伝ではなく、譜面に残すことで、100年後も再現できる音楽として残して行く必要があると思います。

提供:日本コロムビア

古典、オリジナル、そして新たな取り組み―刺激的なステージになる

──今回、住友生命いずみホールの邦楽シリーズ「和のいずみ」の2回目にご出演されます。プロデューサーの片岡リサさんはご存知ですか。
今回初めて共演させて頂きます。片岡さんが言われている「クラシック音楽好きの方に、和楽器の魅力を伝えたい!」というのは、僕も同じ思いです。クラシック専用ホールに鳴り響く津軽三味線や箏、胡弓の響きにご期待ください。

──このシリーズ、オープニングは高校の邦楽部の生徒です。そして、必ず新作がプログラムに並ぶことも特徴です。
若い人たちがプロと同じステージに上がり、同じ空気を経験するのは貴重です。学ぶことも多いでしょう。坂田直樹さんの新曲は、津軽三味線と胡弓、箏の曲です。新作に向き合うのは楽しみです。

──当日のプログラムを紹介してください。
「津軽じょんから節」の旧節と新節を聴いて頂いた後に、「春の海」を尺八ではなく、津軽三味線と箏で演奏します。僕のオリジナル「紙の舞」を津軽三味線の独奏、「夕立」を片岡さんと木場さんとの三重奏でお届けした後、坂田さんの新曲を演奏します。

──最後にメッセージをお願いします。
片岡さんのアイデア溢れる「和のいずみ」は、津軽三味線の多様性を知って貰う良い機会です。「ジュピター」に、細棹の三味線奏者 本條秀慈郎さんから1号挟んで、津軽三味線の僕が紹介されるのも何だか嬉しいです。大好きないずみホールのステージにまた立つことができて光栄に思います。津軽三味線の音色、そして片岡さん、木場さんとの初共演を聴きに、ぜひお越しください。

Message
第2回公演に寄せて

片岡リサ(箏/プロデューサー)

今回第2回目を迎える「和のいずみ」ではメインゲストに津軽三味線界のスーパースター上妻宏光さんをお迎えし、津軽三味線のルーツである津軽⺠謡を前半に、後半は、ご自身のオリジナル曲を本公演のためのスペシャル編成でお届けいたします。また日本の伝統楽器で唯一の擦弦楽器である胡弓を自由自在に操る胡弓奏者の木場大輔さんとともに、作曲家・坂田直樹氏に委嘱の世界初演曲を発信します。そしてオープニングには、邦楽の未来を担う現役高校生の演奏をお聴きいただきます。全国大会を何度も制覇している関⻄創価高校箏曲部の圧巻のアンサンブルも必聴です。トップレベルの奏者と素晴らしい音楽で、日本の伝統音楽をより身近に感じていただけるよう制作を進めています。津軽三味線・胡弓・箏というトリオは普段なかなか聴けない組み合わせです。ぜひ、抜群の響きを誇る住友生命いずみホールで世界初のトリオ演奏にお立ち合いくださいませ。

ジュピター206号掲載記事(2024年5月16日発行)

プロフィール

Hiromitsu Agatsuma

上妻宏光

6歳より津軽三味線を始め、幼少の頃より数々の津軽三味線大会で優勝する等、純邦楽界で高い評価を受ける。ジャズやロック等ジャンルを超えたセッションで注目を集め、これまで世界30ヵ国以上で公演を行っており、ハービー・ハンコック、マーカス・ミラー等との共演も果たしている。また、日本全国の小学校において日本の伝統音楽の魅力を伝える授業を行うなど、次世代への文化伝承にも力を注いでいる。伝統をふまえながら時代に応じた感性を加え、ジャンルや国境を越えて津軽三味線の"伝統と革新"を追求し続ける開拓の第一人者と言える存在。

Official Website
プロフィール

Hiroaki Isojima

磯島浩彰

湖国近江生まれのライター。大手情報誌から某オーケストラの広報マン、劇団制作などを経て、現在フリーで活動。エンタメ業界に携わること約40年。独自のネットワークを駆使したアーティストインタビューを中心に、音楽専門誌やWEBメディア、ホール・演奏団体の広報誌などに寄稿している。

関連公演情報
新・日本の響き 片岡リサ プロデュース
和のいずみ 第2回
2024.8/10㈯ 16:00

片岡リサ(箏/プロデューサー)
上妻宏光(津軽三味線)
木場大輔(胡弓)

◆関西創価高等学校 箏曲部によるオープニング演奏◆
三木 稔:三つのフェスタルバラード

◆古典作品から和楽器の歴史と魅力を知る◆
津軽じょんから節・旧節
津軽じょんから節・新節
宮城道雄:春の海

◆和楽器の現代作品、そして未来へ◆
上妻宏光:紙の舞
上妻宏光:夕立
坂田直樹:委嘱新作
ほか

【料金】
一般 ¥5,000
フレンズ特別価格 ¥4,000
U-30 ¥2,000
ユースシート

文化庁芸術文化振興費補助金劇場・音楽堂等活性化・ネットワーク強化事業(地域の中核劇場・音楽堂等活性化)独立行政法人日本芸術文化振興会

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