世界中で話題のバラエティに富んだ現代音楽をお届け<br>いずみシンフォニエッタ大阪音楽監督<br>藤倉 大インタビュー

世界中で話題のバラエティに富んだ現代音楽をお届け
いずみシンフォニエッタ大阪音楽監督
藤倉 大インタビュー

2026.03.21 インタビュー 藤倉大

新しい昂揚が、始まった。住友生命いずみホールを本拠に活躍する室内オーケストラ・いずみシンフォニエッタ大阪の第2代音楽監督として、世界的に活躍を広げる作曲家・藤倉 大が就任。去る2月の第55回定期演奏会から、藤倉新監督も企画立案に加わったコンサートが(バラエティに富んだ演目も愉しく盛り上がって!)スタートしたばかり。今季はひきつづき、好奇心をくすぐり続けるプログラムが用意されているので、藤倉新監督にお話を伺ってみよう。

まなざしは海外へ!──新たな時代を切り拓く

「僕は中学生の頃から、母に連れられてこのホールにコンサートを聴きに来てましたし、実家に昔の『Jupiter』とかたくさんあるんですよ」と藤倉 大。彼は大阪生まれで、幼くして作曲を志したひと。中学を卒業すると単身イギリスに渡り‥‥かの地で作曲家への道をぐいぐい切り拓いていった過程については、破格に面白い自伝エッセイ『どうしてこうなっちゃったか』[幻冬舎]をお読みいただくとして。

藤倉はイギリスを始めヨーロッパで活躍を始めてから、続いて故国・日本でもその自在な個性が知られるようになった、いずみシンフォニエッタ大阪との縁は長い。イギリスの現代音楽を特集した第21回定期演奏会(下野竜也指揮/20092月)で、若手作曲家だった藤倉の新作《secret forest》(いずみホール+紀尾井ホール共同委嘱)が大阪初演されて大好評。「その時の演奏が凄く良かったのも覚えてますし、トロンボーンのかたが大阪弁で話しかけて下さったのは嬉しかったなぁ(笑)」

この曲は、優れた管弦楽作品に贈られる第57回尾高賞も受賞。以降、藤倉 大の生き生きと斬新な音楽は、オーケストラ作品や協奏曲、ソロや室内楽曲など、日本でも盛んに演奏されて来た。世界各地の名門楽団や音楽祭でも藤倉作品の委嘱初演は続き、オペラなど大規模な作品の発表も重ね‥‥と多忙を極めるなかで、いずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督を引き受けることにもなった。

「僕、自分ひとりで決めるっていうのは嫌なんです。つまらないじゃないですか」と藤倉は言う。「僕が作曲以外の活動をするとき、〈僕個人がどれだけ学べるか〉が重要なポイントなんです。それにこの楽団には、常任指揮者の飯森範親さん、コンサート・アドバイザーの川島素晴さんと、学べる方々がいらっしゃる。事務局の皆さんも含めて、既にベストを尽くして上手く運営されている中で、僕だけが転校生(笑)。そんな中、僕はいいとして、とにかくここの才能あるアーティストの皆さんが、より目立ってほしいと思っています。もう音楽的に素晴らしいわけですから、日本だけでなく、目線を海外へも持っていただきたい」

故・西村 朗(現:名誉音楽監督)時代からの遥かな夢──いずみシンフォニエッタ大阪の海外への発信が、ヨーロッパでも広く活躍する藤倉音楽監督の時代を迎え、いよいよ現実的な目標として見えてきた。

東欧をめぐる、豊かな想像力の広がる傑作たち!

「常任指揮者の飯森範親さんは、凄くフレキシブルな感性を持ちながら、いろんなことにチャレンジされる上で、自分の音楽表現というものを持っていらっしゃる。それらのバランスがとても良いかたです。さらに、コンサート・アドバイザーの川島素晴さんはどんなことでも知っていて、グーグル検索よりも詳しくて早い(笑)」と楽団創立以来のマエストロたちへの信頼を語る藤倉に、今後の定期演奏会のプログラムについてお伺いしてみると、開口一番「やっぱり演奏が一番大事だと思うんです」と言う。

「だから、いずみシンフォニエッタ大阪の皆さんが〈誰〉であって、その皆さんが〈何を演りたい〉かがまず大事。日本の演奏家の皆さんが真面目に演奏して下さるのは、もう分かっているんです。その上で〈どうしてもこの曲を弾きたい〉〈これを演らないといけない〉という曲を僕らにもぜひ教えてほしい」

そんななか、次の第56回定期演奏会(7月11日)で「アザラシヴィリの<チェロ協奏曲>を、人気チェロ奏者、新倉 瞳さんでぜひ演奏したい、と飯森さんから提案がありました。それはウェルカムなので、ぜひ演りましょうと」まず1曲が決まった。ジョージア(旧:グルジア)の作曲家ヴァージャ・アザラシヴィリ(19362024)の書いた、詩情豊かな美しいコンチェルトだ。

「他の曲目についてお話していて〈東ヨーロッパの音楽〉というテーマが出てきた。そこで、僕の先生でもあるペーテル・エトヴェシュ(19442024/ハンガリー出身の作曲家・指揮者)さんの名前が挙がり〈何かありませんかね?〉と尋ねたら、川島さんから《リゲティ牧歌》(2022年/日本初演)という作品が出てきた」

これは、現代音楽の冒険をいよいよ果敢に拡げてみせた鬼才作曲家、ジェルジュ・リゲティ(19232006)の生誕100周年に捧げた作品だ。リゲティと親交も深かったエトヴェシュは、この16人のアンサンブルのための《リゲティ牧歌》に、リゲティ初期の問題作《100台のメトロノームのための交響詩》(1962年/100台のメトロノームがすべてバラバラの速度で鳴り続けているが、11台と振り子の揺れが停まってゆくにつれ、パルスの重なりが見えてきて‥‥という非常にユニークな作品)へのオマージュを込めているという。そこで、この問題作のほうも併せて上演することに。さらに《牧歌》つながりで、古典的な傑作・ワーグナーの《ジークフリート牧歌》も‥‥とユニークなプログラムが決定した次第。聴いて面白いことうけあいだ。

これらの選曲は、ネット上のチャットで交わされた会話から生まれていったそうで、「誰の意見だったか分からなくなるのが、またいいんですよ」と藤倉は笑う。演目は会議室で決まらないのだ。

ペーテル・エトヴェシュ

巨匠クラウゼ、ライリー‥‥その現在進行形が大阪へ!

7月の定期に続いて、10月3日には「藤倉 大のこんな音楽、いかが?『クラウゼを聴こう!』」と題したコンサートも開催される(松井慶太指揮)。こちらも、これでもかとばかりに個性的な作曲家たちが並ぶのだが、

「僕が音楽監督になってから、初めての委嘱作品として、ジグムント・クラウゼさん(1938~/ポーランドの作曲家・ピアニスト)の〈ピアノ協奏曲〉を日本初演します。僕個人的にはペンデレツキよりも重要なポーランドの作曲家だと思っているので、歴史に残る演奏会になると思っています。自慢したいくらい嬉しい()」

ジグムント・クラウゼ

新作が生まれるきっかけが、また凄い。

「僕は学生時代にポーランドの夏季講習に参加して、その運営チームのリーダーがクラウゼさんだったんです。そのあと、セロツキ国際作曲コンクールで第1位(史上最年少)になった時の審査委員長もクラウゼさん。作曲者の名前は非公開で審査されてましたから、蓋を開けてみたら『ああ君か!』って(笑)。そこから話は何十年も飛んで‥‥クラウゼさんからメールが来て,今度は夏季講習に先生として来てほしいと。嬉しかったので、行きますって返信をしたとき、追伸で『今度、いずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督になりますから、クラウゼさんの作品も取り上げたいです』って書いたら、即答で『ダイのためにピアノ協奏曲を書きたい』って返信が来た」

87歳の巨匠は、教育に作曲にと休みなく精力的に活動しているそうで、「今年あと3曲書くとか言ってましたが、夏季講習で若い人たちと最近の技法とかインスタグラムの広報展開についてとか普通に議論してますし」と、そんな好奇心に満ちあふれた上に強靱でしなやかな作曲家・クラウゼの現在進行形が、大阪で響く。

「ピアノ協奏曲の独奏はぜひ若い人に、ということで、クラウゼの信頼もとても篤いポーランドのピアニスト(エヴァ・ポブウォツカ)にも師事した北村朋幹さんに弾いていただくことになりました」と、人気の俊英が登場するのも楽しみだ。

さらに、大阪生まれで3歳からポーランド育ち、クラウゼにも師事した気鋭の作曲家・福岡似奈の《Body without Organs》(2025年/日本初演)に、彼女がコロンビア大学で師事したジョージ・ルイスの《Assemblage》(2013年)と、世界的にご縁が繋がる作曲家たちの作品も併せて演奏される。

ルイスは現代音楽の作曲家・理論家・即興演奏家として活躍するほか、「ジャズのトロンボーン奏者としてのCDは僕も持ってましたし、個人的に子育てのアドバイスをいただいたりと良くしていただいて」と交友関係も反映したプログラムだ。

さらに、故・西村 朗が、秘境の砂漠で生滅を繰り返した幻の湖へ、はたまた精神の内奥へと音の探求を切り拓いていった10人編成の作品《ロプノール(彷徨える湖)》(2022年)、そして至難な重音など新しい音響も駆使したソロがアンサンブルと刺激し合う、未知のサウンドが魅力的な藤倉 大〈ファゴット協奏曲〉(2012年)が、新たにアンサンブル版として編み直されて日本初演される。

「若い頃の作品だから音が細々と多くて、『誰が書いたんだ?どうするのこれ?』って思いながら、直すのが大変でした(笑)。昔からルツェルン音楽祭でお会いしたり、ずっと僕の曲を演ってもらっている中川日出鷹さんが独奏を吹いて下さいます」と、藤倉 大とも関わりの深い人たちの音楽が、たっぷりと‥‥というより、わくわくと肩を並べるようなイメージの選曲は楽しみだ。

さらに、来年2027年2月6日、飯森範親指揮による第57回定期演奏会は、現代音楽の生ける伝説テリー・ライリーの個展(!)。藤倉作品をはじめ現代音楽を縦横無尽に手がける名フルーティスト、クレア・チェイスも迎えてのこちらも、事件とも言えるビック・イヴェントだ。大阪に吹く風はいよいよ強く心地いい。

ジュピター217号掲載記事(2026年3月12日発行)

 

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※お申し込みは2026年 7/11 (土)まで

プロフィール

Dai Fujikura

藤倉 大

大阪生まれ。15歳で単身渡英しJ.ベンジャミンらに師事。1998年セロツキ国際作曲コンクールに当時最年少で優勝。これまでに数々の作曲賞を受賞、国際的な委嘱を手掛ける。オペラの国際評価も高く、2015年にシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱によるオペラ《ソラリス》を世界初演。20年に自身3作目のオペラ《アルマゲドンの夢》を新国立劇場で世界初演。数々の音楽誌にて、その年のオペラ上演におけるベストに選出された。17年から東京芸術劇場で開催の「ボンクリ・フェス」アーティスティック・ディレクターを務める。23年に4度目となる尾高賞を受賞。近年の活動は多岐に渡り、リモート演奏のための作品発表や、テレビ番組の作曲依頼も多数。録音はソニー・ミュージックジャパンインターナショナルや自身主宰のMinabel Recordsから、楽譜はリコルディ・ベルリンから出版。

WEBサイト
プロフィール

Takehiro Yamano

山野雄大

『レコード芸術』『バンドジャーナル』など雑誌・新聞での執筆、インタビュー取材をはじめ、NHK・FM「オペラ・ファンタスティカ」他ラジオ・テレビ出演も。第一生命ホールでのコンサートシリーズ《雄大と行く 昼の音楽さんぽ》ナビゲーターを務めたほか、コンサート解説、歌詞対訳、ONTOMO MOOK『バレエ音楽がわかる本』など寄稿あれこれ。日本製鉄音楽賞選考委員ほか。

関連公演情報
いずみシンフォニエッタ大阪
第56回定期演奏会
「Breathe, Listen, Shine」

【日時】
2026年 7/11 (土) 16:00
15:30~ロビーコンサート
15:45~プレトーク

【金額】
一般 ¥6,000 U‐30 ¥1,000 フレンズ ¥5,400 

【出演者】
飯森範親(指揮)、新倉 瞳(チェロ)

【曲目】
G.リゲティ:100台のメトロノームのための交響詩
P.エトヴェシュ:リゲティ牧歌(日本初演)
R.ワーグナー:ジークフリート牧歌
V.アザラシヴィリ:チェロ協奏曲
S.グバイドゥーリナ:音楽の玩具箱(2024室内管弦楽版/日本初演)


【56回公演チケット購入者ご招待】
新倉 瞳スぺシャル・イベント

【日時】
2026.7/10 (金) 19:00-20:00

【出演者】
新倉 瞳(トーク、演奏)、いずみシンフォニエッタ大阪チェロ奏者

【曲目】
V.アザラシヴィリ:無言歌
■ 作曲家アザラシヴィリにまつわるお話と演奏をお贈りします。

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いずみシンフォニエッタ大阪<br>第56回定期演奏会<br>「Breathe, Listen, Shine」
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いずみシンフォニエッタ大阪
藤倉 大のこんな音楽、いかが?
「クラウゼを聴こう!」

【日時】
2026年 10/3 (土) 16:00

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いずみシンフォニエッタ大阪
第57回定期演奏会
「テリー・ライリー個展」

【日時】
2027年 2/6 (土) 16:00

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