音楽と、風景と、身体と「よい試験、よい師匠?」
2026.03.21 エッセイ 堀 朋平
試験は「出す」ほうが圧倒的に多い昨今ですが、親戚の子どもたちが受験生の年頃になってきたので、あの緊張感を思い出すことが増えてきました。まさに今も、奮闘中の甥っ子を思って手に汗を握っている。車寅次郎ではありませんが、とかく甥っ子は気になる存在です。
どんなところで、どんな人に学ぶのか?尊敬する先輩に倣い、やがて独立する過程でいろいろな摩擦も起きるもの…。ベートーヴェンは、弟子とのそんなやり取りに事欠きません。ユニークな性格が若者を引きよせるのでしょうか。類は友を呼ぶ?そのエピソードについては本誌の記事をご覧いただくとして、ここでは試験をめぐる昔話にちょっとお付き合いくださいませ。
高校のとき、数学の面白さに目覚めかけました。ちゃんと「目覚めた」のであれば違う道もあったのでしょうけれど、その片鱗は蕾のままで閉じたもよう。高1の冬の定期試験は「確率」がテーマ。最後の難問を必死で解いて、ラストの数秒で複雑な分数を解答用紙に書きとめました。分母が3桁だったと記憶しています。ところがこれ、もっとシンプルな数字にできたのですね。採点は「バツ」。約分しないとだめということでした。悔しい!せめて△がほしいところでした。
お次はつれあいの昔話。同じく高1の生物の試験は「淘汰」について自由に説明せよという課題だったそう。そこで彼女はミツバチになりきった。「あ、あそこにタンポポの綿毛があるぞ、あれに乗って…」などと物語を綴ったら、なんと全クラスの模範解答として誉めそやされ、友だちに答案を見せて回ったといいます。四角四面のルールでペケを食らった私からしたら、まことうらやましい話。なにしろ「生物」で「文学」の要素が評価されたのですから。
多感な時期に、自分のなかのどんなところが認められ、伸びていくのか?最初に書いたようにそれは「運」にもよりますが、人の生まれ持ったところを、なるべく愛でていきたいものですね。生物だけでなく音楽研究も文学とおおいに交わってほしいと思ってしまうあたり、高1の試験の反動なのでしょうか?もちろん数学も音楽に欠かせませんけど。
ジュピター217号掲載記事(2026年3月12日発行)
プロフィール
Tomohei Hori
堀 朋平
住友生命いずみホール音楽アドバイザー。国立音楽大学・九州大学ほか非常勤講師。東京大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。『わが友、シューベルト』(アルテスパブリッシング、2023年)で令和5年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(評論部門)受賞。著書『〈フランツ・シューベルト〉の誕生――喪失と再生のオデュッセイ』(法政大学出版局、2016年)、共著『バッハ キーワード事典』(春秋社、2012年)、訳書ヒンリヒセン『フランツ・シューベルト』(アルテスパブリッシング、2017年)、共訳書バドゥーラ=スコダ『新版 モーツァルト――演奏法と解釈』(音楽之友社、2016年)、ボンズ『ベートーヴェン症候群』(春秋社、2022年)など。やわらかな音楽研究をこころざしている。
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