結成30周年!特別な節目と重なった次のステップ ロータス・カルテット インタビュー

結成30周年!特別な節目と重なった次のステップ ロータス・カルテット インタビュー

2023.02.05 インタビュー ロータス・カルテット

日本が生んだ随一の国際的な弦楽四重奏団として、ドイツ・シュトゥットガルトを拠点に国際的な活動を展開し、2023年に結成から30周年を迎える「ロータス・カルテット」。第2ヴァイオリンに若きドイツ人女性奏者、スヴァンティエ・タウシャーの加入を受けて、"新生ロータス"としての日本での初披露ともなる記念のステージは「結成当初から演奏し続けている」というシューベルト《死と乙女》を軸に、メンデルスゾーンの第6番とハイドンの第76番《五度》を配したプログラムで臨み、さらなる"伝説"を紡ぎ始める。

世界で活躍する日本発カルテット

1992年に結成。「ロータス」は、ギリシャ神話に登場する「食べると忘我の境地に陥る実をつける植物」に由来する。翌年には、開かれた第1回大阪国際室内楽コンクールの弦楽四重奏部門でいきなり第3位に。メロスをはじめ、アマデウス、ラ・サールなどの名門カルテットから直接の薫陶を受け、97年には難関・ドイツBDI音楽コンクールで弦楽四重奏部門の第1位を受賞。その後も数々の登竜門で、各国の若く優秀なカルテットの演奏に触れて「大陸である欧州だからこその、音楽的な刺激の中に身を置きたい」とドイツを拠点に定め、国際的な活動を続けている。

相思相愛から始まる30周年

30年を迎えて「あっという間ですね。まず一番に『家族よりも長く過ごしているんだな』と感じました。これ以上に素晴らしい事ってないと思います」とヴィオラの山碕智子。かたや、第1ヴァイオリンの小林幸子は「『そうか、30年なんだ』(笑)と言う感じで、いつもと同じ。何も変わりません。ただ大事に、ずっと続けられたらいいと思っています」と静かに微笑む。そして、チェロの齋藤千尋は「何年も前から、この節目を目指して取り組んできたわけですが、いざその時になってみれば、次のステップへのスタートと30周年が"ちょうど重なった"感覚でした」と明かす。

それと言うのも、2005年から16年にわたり、第2ヴァイオリンを担当してきたマティアス・ノインドルフが引退を表明したのに伴い、新メンバーを探すことに。ちょうど、コロナ禍と重なり、多忙な演奏活動が一段落したため、「約2年にわたって、じっくり検討できた」と3人は口を揃える。その結果、何人もの候補者の中から白羽の矢が立ったのが、フライブルク・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスターを務め、室内楽のステージでも活躍している俊英タウシャー。4人で初めて弾く機会があり、「雷が落ちたような一目惚れ」で、「彼女だ!」と全員の意見が一致したという。

「4人がそれぞれ柱となり、四重奏という"家"を支えている。でも、ただ『1本を差し替えれば済む』という訳ではありません。彼女が加入したことで、目指すべき"答え"は変化しました。勉強し直す必要が出てくるなど、大変なことも多いですが、それがまた楽しい」と齋藤。「"良い音楽"のためには、互いに何でも話し合う」というカルテットにとって「ポジティヴにストレート」(山碕)で「オープンにはっきり意見をぶつけてくる彼女は、非常にやりやすい」(齋藤)とも。一方のタウシャーも「『私たちと弦楽四重奏をやらない?』と電話を貰った時は本当に嬉しくて、ふたつ返事でOKしました。世代の違いを超えて信頼関係を築けるのは、とても刺激的です」と語る。

2022年10月2日、ツヴィンゲンベルク(フランクフルト近郊)

人に寄り添い共鳴しあうプログラム

今回のステージで核に据えた《死と乙女》は、カルテット創設時に最初に取り組んだ作品のうちのひとつ。「一番、よく弾いている作品かも(笑)。それでもなお、名曲だと感じます」と齋藤。そして、近年、全曲演奏にも取り組んだ「あまり手を付けなかったが、実際に演奏してみると面白くて、考えさせられる面も多い」(小林)メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲から、沈痛ながら美しい第6番を。さらに、「何と言っても、特徴的な"五度"の旋律が魅力」(山碕)というハイドンの第76番を組み合わせる。そして、今回が初の来日となるタウシャー。「楽団でも日本の同僚がいますが、音楽を理解する土壌があるのを強く感じます。今回は、作曲家それぞれの想いを届ける演奏ができれば」と語る。
人に寄り添い共鳴しあうプログラム

住友生命いずみホールは私たちの"住処"

大阪国際室内楽コンクールの会場でもある住友生命いずみホールは、このカルテットにとっての"出発の地"。「ここで演奏する際には、毎回、温かな雰囲気でお迎えいただいて、何年を置こうとも、常に"帰って来る"感覚」と山碕。「コンクールの授賞式の時、関係者の方から『続けなあかんで。みんな辞めていくから、絶対続けや』と言われたのを、今でも覚えています。30年を迎えたとぜひ報告したいと思っているのですが、いったい誰がおっしゃったのか、肝心の事を覚えていません」と笑う。

1993年、大阪国際室内楽コンクール(会場:住友生命いずみホール)

可能性が広がる時代へ

今、「戦争」という現実に直面しているヨーロッパ。「今回のウクライナ侵攻もそうですが、これまでにも様々な紛争が発生し、ドイツへは様々な国から難民が流入して、寛容と排斥の間でコンフリクト(葛藤・対立)が起こりました。でも、そんな中で、30年前にあったような境界線は薄れつつあります。日本人の私たちだからこそ、実感しています」と齋藤。彼女たちのレパートリーも同様で、メンバー交替もあって「今までとは全く異なるものに挑戦するのは間違いない」という。「"女性だけのカルテット"に戻ったこともあり、ファニー・メンデルスゾーンなど古典から、ソフィア・グバイドゥーリナやローラ・アウエルバッハ、望月京など現代まで、女性の作曲家の作品のみを弾く企画も進行中です」。

30周年の向こう

それでは、"30周年の向こう"にある「カルテットとしての究極の目標」とは一体、何なのか。「カルテットに限らず、演奏家は皆、自分たちがどういったアイデンティティをもって、何を提供したいのか、聴衆の皆さんと何を分かち合いたいのか、常に突き詰めてゆくのを生業としています。だから、目標は『生きている限りは、弾き続けていたい』ということかもしれません」と齋藤が語ると、大きく頷いた他のメンバー。そして、タウシャーが「もしも私たちがステージ上で、内面から信頼し、喜びを分かち合っていれば、このコンサートが非常に特別なものだと、聴衆の皆さんにもきっと、理解していただけるはずです」と締め括った。

ジュピター198号掲載記事(2023年1月12日発行)

プロフィール

音楽ジャーナリスト

寺西 肇

神戸市出身。音楽ジャーナリストとして、「音楽の友」「レコード藝術」ほか各誌に執筆。2005年5月、バッハアルヒーフ・ライプツィヒで「バッハと偽作」をテーマにパフォーマンスを行うなど、バロックヴァイオリン奏者としてのステージ経験もある。著書に「古楽再入門」、訳書にヤープ・シュレーダー著「バッハ 無伴奏ヴァイオリン作品を弾く~バロック奏法の視点から」(いずれも春秋社)など。

プロフィール

Lotus String Quartet

ロータス・カルテット

1992年結成。1995年よりドイツ・シュトゥットガルト音楽芸術大学でメロス弦楽四重奏団に師事。 「メロス」「アマデウス」「ラ・サール」など、二十世紀を代表する名カルテットからの信頼を一身に受けたロータス・カルテットは次第に本場ヨーロッパで頭角を現し、ドイツBDI音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位を受賞。これを機にワーナー・テルデックと録音契約。今日までシュトゥットガルト拠点に活躍している。 2006年にはCD『シューマン:弦楽四重奏曲全集』が文化庁芸術祭優秀賞受賞。2012年には国際的活動への出発点となった大阪・いずみホールで、結成20周年記念演奏会を行い、NHK-TV及びFMにおいて放送されたほか、同時期に発売された『ブラームス:弦楽四重奏曲op.51-1&2』『シューベルト:弦楽五重奏曲&ウェーベルン:作品集』が いずれも『レコード芸術』誌で『特選盤』に選ばれるなど多方面から絶賛された。2018年にはベートーヴェン後期作品全曲ツィクルス(3公演×3都市)、シューマン全曲演奏会(3都市)を含む16公演の日本ツアーを17日間で完結。 ロータス・カルテットは日本発祥ながらドイツを本拠とする国際的な常設弦楽四重奏団として、すでに30年以上のキャリアを誇り、今やドイツにおける弦楽四重奏の伝統的精神を受け継ぐ稀有な存在である。

ロータス・カルテットHP
関連公演情報
ロータス・カルテット
2023.2/24 ㈮ 19:00

ハイドン : 弦楽四重奏曲 第76番 ニ短調《五度》
メンデルスゾーン : 弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 op.80
シューベルト : 弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D810 《死と乙女》

一般 ¥5,500 学生 ¥2,750
住友生命いずみホールフレンズ会員
特別価格 ¥3,500
チケット好評発売中!!

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ロータス・カルテット