ミシェル・ブヴァール スペシャルインタビュー 「フランス・オルガン音楽の魅惑」シリーズの軌跡──

ミシェル・ブヴァール スペシャルインタビュー 「フランス・オルガン音楽の魅惑」シリーズの軌跡──

2024.10.24 インタビュー オルガン

昨年、3年間に渡るシリーズを締めくくった「フランス・オルガン音楽の魅惑」。アンコール公演として本年11月ミシェル・ブヴァールと宇山=ブヴァール・康子による【特別編】を開催いたします。過去3年間の足跡と今後の注目ポイントをプロデューサー・ミシェル・ブヴァールに伺いました。

大きな挑戦だった歴史をたどる旅路

──まずは2021年から3年続けてこられた『フランス・オルガン音楽の魅惑』シリーズの感想からお伺いしたいと思います。いかがでしたか?

それは私より、むしろ客席の皆様と運営の方々にお聞きしたいですね……とはいえ私の見解を聴いてくださるなら、あの企画を実現できて本当に嬉しいと申し上げねばなりません。ケーニヒ工房のオルガンが調整を終えた後 、バッハ作品の連続演奏会を続けながら、私は住友生命いずみホールに来てくださる皆様へ向け、4世紀以上もの歴史がある“フランスのオルガン音楽”というものの魅力に開眼していただく役目を授かりました。それもわずか3回の大がかりな演奏会と、その事前に1度しっかりした講演&質疑応答の場を設け、その枠内でやる必要があったのですから大仕事でしたよ 。ともあれ、この機会にトマ・オスピタルとヴァンサン・デュボワを皆様に紹介できたのも本当によかったと感じています。二人とも昔は私のクラスで勉強していましたが、今やどちらもフランス・オルガン音楽演奏によって世界的な大スターになっている人たちですからね。

2021年に開催された最初の回は私が弾きましたね。「最初の旅」と銘打ち、ルネサンス期から20世紀までさまざまな時代の曲をとりあげました。トマ・オスピタルが弾いた第2回は2022年、「ロマン派から印象派」という公演タイトル通りの時代の曲を扱いました。そして最後に2023年の回では、ヴァンサン・デュボワがパリ・ノートルダム大聖堂のオルガン音楽伝統の素晴しさに光を当てるプログラムを演奏しました。当の大聖堂が火災被害修復の末、2024年12月に待望の再開を迎える1年前に……という形ですね。

 

この3回は幾つかの指針にもとづいて、全体で一貫性ある内容にまとめることができました。その指針の一つとして、2022年に生誕200周年を迎えたフランス・オルガン音楽界の重要人物フランクの存在がありましたね。彼の音楽生涯の集大成ともいうべき最後の傑作、オルガン独奏のための『三つのコラール』から毎回1曲ずつとりあげました。さらに即興演奏の要素も各回にありました──トゥールヌミール、デュプレ、コシュローらの[即興演奏にもとづき作曲された]作品をとりあげたのもその一環ですね、コシュローの作品でも特に有名な「ボレロ即興曲」がそのクライマックスを飾りました。しかし何より、3年にわたる企画のなかでフランス・オルガン音楽を代表する重要な作曲家たちを一通り紹介できたことがよかったと思います。クープラン一族からダカンに至る古典はもとより、ヴィドールからデュリュフレに至る交響楽派、中でもヴィエルヌのような重要人物はいわずもがな...そして近現代のメシアン、フロレンツ、エスケシュにいたるまで。

そこに至るまで、いろいろ取捨選択をせねばならなかったのは確かです。[フランスのオルガン音楽の]適切な紹介をしようと思ったら、それこそ大掛かりな演奏会を10回、いや15回はやらないと足りません──そのくらい傑作揃いなのですから。ともあれ、まず今はいずみホールに来てくださる方々に、この領域に開眼していただくという第一の目的は果たせていたら...ということに尽きますね。加えて申し上げたいのは、この企画を何もかも妻の康子と共に進めて来れたのが心底嬉しい体験だったということです。京都生まれの康子は彼女自身がフランス音楽の比類ない演奏家ですしね、チェンバロもオルガンでも。

今秋開催 ドイツ、フランス双方の傑作で彩られるシリーズ特別編

──では2024年11月の演奏会について、ぜひ注目すべき点をご紹介ください。

今年の演奏会は2部構成で、ドイツ音楽の部とフランス音楽の部からなります。いずみホールの楽器が建造時のアドバイザーだったフランスの名匠でミシェル・ブヴァールの恩師でもあるアンドレ・イゾワールと建造家のイヴ・ケーニヒの望んだ通り、どちらの様式にも適していることを示せるように、と。

しかしまず特筆したいのは、宇山=ブヴァール康子も演奏に加わってくれることですね。彼女だけで弾く曲もありますし、連弾向け編曲で私が共演する曲もあります。44年も夫婦でいられる間柄の私たちですから、音楽面でも阿吽の呼吸が通じる面があるのは申し上げるまでもありませんし、そのような共演をお届けできることは客席の皆様にとっても喜ばしい結果になるに違いありません。この企画が始まって以来3年にわたり、いずみホールに来てくださった皆様には通訳としておなじみの彼女ということになりましょうが、ほかでもない彼女が皆様に向けて、ドイツとフランスの他に類をみない傑作(本当にどちらもそう申すほかありません)を披露する場ができるなんて、本当に嬉しいですよ。ドイツの曲はバッハの100年前、シュッツやフレスコバルディらと同じく17世紀前半に活躍したシャイトのファンタジア。フランスの曲は17世紀にノートルダム大聖堂で正規オルガン奏者をしていたシャルル・ラケの作曲によるファンタジアですね。

ちなみに、私はつい最近ヴェルサイユ宮殿の、かつて王室mいの人々が祈っていた礼拝堂にあるオルガンで新しいCDアルバムを録音しまして。そこでは1700年前後にルーアンで活躍した、当時のフランス・オルガン音楽を代表する名匠のひとりであるグリニーの、オルガン独奏によるミサ曲を弾いています。2024年秋の発売ということですから、11月には日本にもご紹介できるでしょうね。演奏会でも、そこに収録した奉献唱の部分を弾きます。素晴らしい一編なんですが、なかなか演奏される機会がないのですよね……。

あとですね、恩師のアンドレ・イゾワールはほら、いずみホールのオルガン設営にあたってケーニヒ氏を呼んできた立役者でしょう。それで、バッハのオーケストラ曲もいくつか、彼がオルガン独奏向けに編曲した版で演奏することにしました。4台もチェンバロを使うことになる大がかりな協奏曲(BWV 1065)も、そのイゾワール版で演奏しますよ!

──オルガンでも連弾することがあるんですね。これはどういった点が魅力でしょうか?

まずね、鍵盤が狭いのがいいんですよね。グランドピアノほど広くない。それがいい。
それと、オルガン連弾向けの曲じたい素敵なものが多いんです。最初から連弾向けに作曲されたものは本当にほとんど知られていませんけどね。モーツァルトが書いた愛らしいディヴェルティメントとか、あと現代作曲家でクラリネット奏者でもあるヴィトマンが木管コルネットやサックバットなどの古楽器で合奏するよう書いていた小さな舞曲集とか、いろいろ良いものがあります。

何にせよ、誰かと一緒に、互いの音を聴き合いながら同じ感興をともにして音楽をやるというのは、なんとも筆舌に尽くしがたい喜びなんですよね。

──では最後に、11月の演奏会に来てくださる方々向けに一言いただければ幸いです。

いずみホールにお越しの親愛なる皆様、これまでの3年間というもの、11月には私と康子 のところへ多くの方々が来てくださり、音楽の愉しみと気持ちの高揚を共にしてくださいました。幸い、2024年も二人で共にケーニヒ建造のオルガンの鍵盤を弾く演奏会を開く運びとなりました。プログラム、ちょっと凝ったものになっています。あの素晴らしいホールで再びみなさんの前に出られますこと、そこで私たちが愛してやまない曲の数々を披露できますこと、とても嬉しく思っておりますこと、ここにお伝えさせてくださいませ!

(訳:白沢達生)

宇山=ブヴァール・康子、ミシェル・ブヴァール

ジュピター207号掲載記事(2024年7月11日発行)掲載記事に一部加筆、修正を加えています。

関連公演情報
ミシェル・ブヴァール プロデュース
フランス・オルガン 音楽の魅惑
“特別編”
2024.11/23(土·祝) 16:00

ミシェル・ブヴァール 、宇山=ブヴァール・康子(パイプオルガン)

【料金】 一般¥4,500 U-30¥2,000

【曲目】
E.ヴィトマン:5つの舞曲
S.シャイト:“ああ、私はこんなにも傷ついて”によるファンタジア
J.S.バッハ(A.イゾワール編):管弦楽組曲 第3番 ニ長調
BWV1068より アリア
4台のチェンバロのための協奏曲 イ短調 BWV1065
“目覚めよ、と呼ばわる物見らの声” BWV645
W.A.モーツァルト:ディヴェルティメント 第9番 変ロ長調 K.240
F.クープラン:クラヴサン曲集 第3巻 第15組曲より“ミュゼット”
O.メシアン:『主の降誕』より“神の子たち”
『聖霊降臨祭のミサ』より“鳥と泉”
M.デュリュフレ:“来たれ創り主なる聖霊”によるコラール変奏曲 ほか

助成

後援

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