住友生命いずみホールの響きにふさわしい、宗教音楽を共に聴くシリーズに山田和樹(指揮)インタビュー

住友生命いずみホールの響きにふさわしい、宗教音楽を共に聴くシリーズに山田和樹(指揮)インタビュー

2026.09.25 インタビュー

山田和樹が、2027年1月16日に、「プロフェッション・シリーズ」Vol.1およびシリーズ「走りだす、ベートーヴェン」の一環として、ベートーヴェンとモーツァルトのミサ曲を指揮する。住友生命いずみホールでの山田のシューベルト、メンデルスゾーンのシリーズに続く企画として、大いに注目される。

「マタイ受難曲」へと続く道筋

──まず、住友生命いずみホール(以下、いずみホール)との関わりを教えてください。

東京混声合唱団(注:山田が音楽監督を務めている)がいずみホール定期演奏会を開催しているので、以前から、いずみホールで東混を指揮したことがありました。
いずみホールとの関係が一気に深まったのは、2022年9月のシューベルト交響曲全曲演奏会からですね。そして2025年には、メンデルスゾーンの交響曲と宗教曲の連続演奏会も指揮しました。

──そして今回、宗教音楽を取り上げる「プロフェッション・シリーズ」なのですね。

やはり指揮者になったからには、人生で一度は、バッハの「マタイ受難曲」を指揮したい、指揮しなければならない、という目標というか不思議な使命感のようなものがありまして、実は、10年くらい前から準備は始めていました。そのうちに、2029年3月がメンデルスゾーン版初演の200周年にあたることに気づいたので、いずみホールで、メンデルスゾーン版を実現する道筋をつけられないかと思いました。僕はこれまで宗教曲を集中的に取り上げたことがなかったのですが、合唱にも最適な贅沢な音響を誇るいずみホールで、宗教曲をフィーチャーすることにしたのです。
その新シリーズの第1回として、ベートーヴェンとモーツァルトのミサ曲を取り上げることにしました。ハ長調とハ短調で良い組み合わせになりました。

──「プロフェッション・シリーズ」とはどういう意味ですか?

「プロフェッション」とは「信仰告白」を意味します。どんな宗教でも、もともと異端から始まります。なので、「私はこの宗教を信仰しています」と告白することが、自分は異端者であるという宣言にもなって、時代によっては、弾圧を受けたり、死を意味していたことがあります。プロフェッションは命がけの行為だったのです。そこから転じてプロフェッションは「職業」という意味になりました。どんな職業でも、命を懸けて行うこと、という言葉の背景があるのですね。音楽家として、音楽にその命を燃焼させていく、そういった根本の部分をもう一度見つめたいという思いも込めながら「プロフェッション・シリーズ」と名付けました。

──シリーズの2回目以降はどうなりますか?

1回目が王道の「ミサ・ソレムニス」ではなく、ミサ曲ハ長調を取り上げるので、2回目以降も、異端という意味ではないですが、王道ではない路線でいければと思っています。ハイドンのオラトリオといえば「天地創造」が王道でしょうが、このシリーズではぜひ「四季」を取り上げたいなと思っています。「マタイ受難曲」もオリジナルではなく、メンデルスゾーン版を演奏する計画です。

メンデルスゾーン─光のほうに Vol.2 「光輝─見いだされた耀き」(2025/1/25)

没後200年に取り上げるベートーヴェン

──昨年11月にベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を横浜シンフォニエッタと演奏されましたね。

「ミサ・ソレムニス」は畏れ多くて、それまで手をつけてなかったのですが、指揮してみたら、大発見の連続でした。自分の音楽人生が変わっといっても、大げさではないと思います。
ベートーヴェンはテキストに対する読み込みが独特で、「ミサ・ソレムニス」のように一語一語に違うニュアンスの音楽を付けている作品は、それまでありませんでした。ふつうは楽譜上の音符は表音文字的に並んでいるのですが、「ミサ・ソレムニス」の音符は表意文字的なんです。意味が凝縮されていて、いわば、漢字が並んでいるような楽譜なんです。

──今回取り上げる、ミサ曲ハ長調についてはいかがですか?

「ミサ・ソレムニス」への橋渡しの作品といえると思います。ベートーヴェンのミサ曲は、彼の独特の宗教観の中で書かれています。例えば、合唱など声楽の扱いが器楽的で歌いにくいところもあるのですが、彼は推敲に推敲を重ねて突き詰めた人なので、おそらく歌いにくいところにもそれなりの意味があるはずなんです。彼の人生が簡単なものではなかったように、音楽も簡単には進んでいかない、といったような哲学的な要素を彼の音楽からは感じます。だからこそ、ベートーヴェンの音楽は多くの人を魅了し続けているのでしょう。ミサ曲ハ長調は初めて指揮するので、どんな発見があるのか楽しみです。

モーツァルトとの組み合わせでおもしろいのは、ベートーヴェンは、モーツァルトをとても尊敬していたということですね。彼は、作曲の前に必ずモーツァルトの作品を写譜していたというエピソードがあります。モーツァルトの作品からインスピレーションを得て、それを元に作曲していたのです。その意味で、モーツァルトなしではベートーヴェンの作品は生まれませんでした。

──2027年はベートーヴェン没後200周年ですが、ベートーヴェンをどういう人物だったと思っていますか?

彼の作品の楽譜を見たり、音楽を聴いたりすると、武骨さもある反面、とてもデリケートな人物だったのだろうと思います。そして、耳が聞こえなかったからこそ、目の感覚は人一倍研ぎ澄まされていたのだと思います。「田園」は、視覚からのファンタジーです。
ベートーヴェンは、耳が聞こえないという自分の運命を呪っていたフシがあります。神を信じるにしても、彼には独特の距離感があったのだと思います。「第九」でも神という言葉が何回か出てくるのですが、神は決して応えてくれないんです。神の返事の代わりに、トルコ・マーチが聞こえてきたりする。「遠くの親戚よりも近くの他人」という言葉がありますが、ベートーヴェンにとっては、いるかいないかわからない神よりも近くにいる友人のほうが大切だったのかも知れません。神は星空の彼方で黙って見守っている存在として、人間のほうが確かなる実在感があるということでしょうか。

来年はベートーヴェンの記念年ですが、僕もバーミンガム市交響楽団とベートーヴェンの交響曲全曲演奏をします。1998年の東京で初めて聴いたラトル&バーミンガム市響の「運命」は、頭をなぐられたようなショックを受けました。そのオーケストラのシェフを今は僕がやっているというのは夢のような話です。なるべくラトルのアプローチはこうだったとかは考えないようにしています。自分のやり方でやるしかないし、どちらかというとオールド・スタイルになるでしょうが、ベートーヴェンの前ではウソをつけない。彼の音楽には小手先が通用しないのです。

──今回共演するオーケストラは関西フィルハーモニー管弦楽団ですね。

初めての出会いはシューベルト・シリーズ(2022年9月)でした。僕にとって、音楽をやる初心を感じさせてくれるオーケストラなんです。フレッシュさ、エネルギーがあり、向上心に満ち、モチベーションが高い。リハーサル中、独特の幸福感があって、優しさに包まれているようでした。そして、メンデルスゾーン・シリーズのときに、(首席指揮者の)藤岡幸夫さんに「『フレンド・オブ・サチオ』になる!」と言いました(注:かつての新日本フィルでの、ロストロポーヴィチの「フレンド・オブ・セイジ」の称号に由来する)。

──最後に抱負をお願いいたします。

いずみホールという素晴らしい空間で、宗教音楽にまた違った角度から光を当てることが出来ればと思っています。関西フィルと僕とのコラボレーション、東京混声合唱団、4人の素晴らしいソリストたち。至高の演奏をお届けするべく、がんばります!

ジュピター220号掲載記事(2026年9月8日発行)

プロフィール

Kazuki Yamada

山田和樹

2009年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC交響楽団を指揮し欧州デビュー。2012/2013シーズンから6年間、スイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者、2016/2017シーズンから10年間、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督を歴任。2023年4月からバーミンガム市交響楽団首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーを務め、その後、2024年5月には同団音楽監督に就任。2026/2027シーズンよりベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者兼芸術監督を務める。日本では、主要オーケストラへの客演をはじめ、学生時代に創設した横浜シンフォニエッタ音楽監督、東京混声合唱団音楽監督兼理事長としても活動し、2026年4月には東京芸術劇場音楽部門芸術監督に就任した。 サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、フランス国立管弦楽団への定期的な客演のほか、近年は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン交響楽団、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団等にデビュー。 第56回(2024年度)サントリー音楽賞、第76回(2025年度)芸術選奨文部科学大臣賞など受賞歴も多数。

プロフィール

Haruo Yamada

山田治生

音楽評論家。1964年、京都市生まれ。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「トスカニーニ」、「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方/ツイッター演奏会日記」、編著書に「戦後のオペラ」、「バロック・オペラ」、「オペラガイド」、共著書に「バイオリンを知る本」などがある。

関連公演情報
走り出すベートーヴェン
プロフェッション・シリーズ Vol.1

【10/2 (金)発売】

【日時】
2027年 1/16 (土) 16:00

【出演者】
山田和樹(指揮)
東京混声合唱団 関西フィルハーモニー管弦楽団
盛田麻央(ソプラノ)、秋本悠希(メゾ・ソプラノ)
松原 友(テノール)、加藤宏隆(バス)

【曲目】
モーツァルト:ミサ曲 ハ短調 K.427
ベートーヴェン:ミサ曲 ハ長調 op.86

【金額】
一般 S ¥9,000 A ¥7,000 U‐30 ¥4,000
フレンズ S ¥8,100 フレンズA ¥6,300

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関連公演情報
走り出すベートーヴェン
ゲヴァントハウス弦楽四重奏団

【10/2 (金)発売】

【日時】
2027年 2/10 (水) 19:00

【曲目】
シューベルト:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 D87
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲
第11番 「セリオーソ」 ヘ短調 op.95
第7番 「ラズモフスキー第1番」 ヘ長調 op.59-1

【金額】
一般 ¥7,000 U‐30 ¥3,000 フレンズ ¥6,300

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