メンデルスゾーン──光のほうに<br>企画監修 堀 朋平×山田和樹 特別対談<br>メンデルスゾーンと作品に「光」をあてるシリーズに

メンデルスゾーン──光のほうに
企画監修 堀 朋平×山田和樹 特別対談
メンデルスゾーンと作品に「光」をあてるシリーズに

2024.10.05 特集

2025年1月22日より、「メンデルスゾーン──光のほうに」と題したコンサートシリーズが開催される。これは住友生命いずみホール音楽アドバイザーの堀 朋平とシリーズの指揮者を務める山田和樹によって作り上げられた企画であり、関西の4つのオーケストラがメンデルスゾーンの交響曲と宗教曲を演奏。2022年に行われたシューベルトの交響曲全曲演奏会の好評を受けてのものであり、シューベルトとメンデルスゾーンのつながりも感じていただきたいという。今回は堀、山田のおふたりにコンサートのききどころなどをお話いただいた。

山田:シューベルトの交響曲全曲演奏会がとても素晴らしいものとなり、「次はメンデルスゾーンをやりたいです!」と申し上げたのをよく覚えています。
堀:山田さんからメンデルスゾーンというご提案をいただいて「その手があったか!」と意表を突かれました。もともと、次はブラームスやクララなど、ロマン派を支えた人間関係の特集などを考えていたのですが、シューベルトとメンデルスゾーンは歌謡性、宗教性など様々な部分でつながりがあり、いい流れができるな、と思ったのです。

運命の作品《エリヤ》

──今回、とくに山田さんが熱い想いをもっているのがオラトリオ《エリヤ》とうかがいました。
山田:運命を感じずにはいられない作品なのです。まず、《エリヤ》の公演日が1月26日なのですが、これは私の誕生日なのです(笑)。また、10年ほど前にサントリーホールでこの作品を指揮した日の夜、日本のある団体から2年後に《エリヤ》を指揮してくれないかとメールがきたのです。しかし、なんと同日にバーミンガムで《エリヤ》を指揮する予定があったので断ったのです。こんな偶然、そうないですよね?まさに運命だなと。

堀:もはや「山田和樹=エリヤ」といっても過言ではないですね。メンデルスゾーンも、当時「彼自身がエリヤだ」というようなことを言われていましたね。作品の魅力はどこにあると思われますか?

山田:実は、最初「難しい」という印象がありました。これは約2時間半という演奏時間の長さ、主人公のエリヤが重唱に加わるなど、役割がわかりづらくなるといったところも関係しています。ただ、以前に仙台で演奏したときに、今どの曲をやっているのか、というのを電光掲示板に出すようにし、手元で短い解説をご覧頂けるようにしたところ、聴衆にも私自身にとっても非常にわかりやすくなりました。またユダヤの信仰をもつエリヤ側の人々と異教徒側、それぞれの役割を音楽でしっかりと描き分けることで楽曲の魅力がさらに出てきます。特に異教徒側の音楽はかなり生々しい表現をすることが重要です。オラトリオでありながら、オペラともいえるドラマ性がありますね。

堀:たしかに、その前に書かれた《聖パウロ》はバッハの《マタイ受難曲》を忠実になぞった感が強いいっぽうで、《エリヤ》は様式もはるかに複雑で色々な要素が混ざっていますから、その"雑多な声"をどう生々しく表現するか、そこが大きなポイントになりそうですね。これにはメンデルスゾーンの宗教性も関わってくるのかなと思うのですが。

山田:我々が思うよりメンデルスゾーンの宗教観は複雑ですね。結果的にキリスト教に改宗しますが、彼は子供の頃からユダヤ人ということで石を投げられるなど差別を受けてきました。《エリヤ》のドラマ性には、彼の「元々はキリスト教徒ではなかったのに」という"改宗"ということへの葛藤が込められているのではないかと。だからこそ、キリスト教徒ではない私にも介入の余地があると思うのです。

堀:そのあたりが、今を生きる私たちに響いてくる核心かもしれません。

タイトルに込めた想い

──これは特に堀さんにお伺いしたいのですが、今回のコンサートのタイトルを「光のほうに」とされたのはなぜだったのでしょうか。

堀:いくつか理由があります。まず表面的なところでは、メンデルスゾーンという人物からの着想です。恵まれた環境で、外面的には不自由なく育ち、音楽的にもバランスの取れた人物像が、光のイメージと結びつきました。次に方位のイメージです。第1日に入れた交響曲第4番《イタリア》の燦燦とした雰囲気を活かしたかったのです。また《真夏の夜の夢》ににぎわしい《トランペット序曲》と喜劇的な《カマーチョの婚礼》序曲も入れましたが、これは音楽祭に力を入れていたメンデルスゾーンへのオマージュです。真冬に真夏の夜の夢を想像してほしいという想いも込めて。いっぽうで、最終日には交響曲第3番など荒れ果てた北国にインスパイアされた曲を置き、全体で陰と陽も作り出すようにしています。最後に山田和樹さんのイメージ。私は、山田さんは光のような存在だと思っています。メンデルスゾーンはたくさんの分野の同時代人を支えつなぎましたが、山田さんの音楽家としてのありかたには、そういう啓蒙的な音楽家のイメージが重なるのです。

山田:「啓蒙」という言葉はフランス語やドイツ語、英語でも「光で照らすこと」と同義であり、音楽家の使命でもありますね。私は今回の演奏会を通してメンデルスゾーンという作曲家と作品に「光」をあてていきたいです。

──メンデルスゾーンは名曲が多いのにも関わらず、特集やコンサートプログラムのメインとなる機会が少ないですね。今回の特集によって多くの方がこの作曲家の魅力に気づかれることと思います。

堀:さきほど"光"の作曲家と申し上げましたが、それだけではない影の部分、異常ともいえる部分ももちあわせており、本当に多彩な魅力があります。今回、公演の前にはロータス・カルテットの皆さんをお迎えしてのレクチャー&コンサートでは、初期の弦楽四重奏曲を中心に、知られざるメンデルスゾーン像をお伝えします。

山田:メンデルスゾーンは交響曲を書くときも常に室内楽的な響きが念頭にあった作曲家です。19世紀という形式も編成も巨大化していく時代に、伝統的なコンパクトな枠のなかで素晴らしい作品を書いた天才です。住友生命いずみホールの音響との相性がとてもいいと思いますので、存分にメンデルスゾーンの世界をお楽しみ頂きたいですね。

ジュピター208号掲載記事 (2024年9月11日発行)

プロフィール

指揮

山田和樹

2009年第51回ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。2016/17シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、2023年4月からバーミンガム市交響楽団首席指揮者兼アーティスティックアドバイザー、2024年5月には同団音楽監督に就任。日本では、東京混声合唱団音楽監督兼理事長、横浜シンフォニエッタの音楽監督、2026年4月1日より東京芸術劇場の芸術監督(音楽部門)に就任予定。2025年6月には、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にデビューを予定している。

プロフィール

ホール音楽アドバイザー/音楽学

堀 朋平

住友生命いずみホール音楽アドバイザー。国立音楽大学・九州大学ほか非常勤講師。東京大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。『わが友、シューベルト』(アルテスパブリッシング、2023年)で令和5年度芸術選奨文部科学大臣新人賞(評論部門)受賞。著書『〈フランツ・シューベルト〉の誕生──喪失と再生のオデュッセイ』(法政大学出版局、2016年)、訳書ヒンリヒセン『フランツ・シューベルト』(アルテスパブリッシング、2017年)など。やわらかな音楽研究をこころざしている。

プロフィール

音楽ライター

長井進之介

国立音楽大学大学院修士課程器楽專攻(伴奏)修了、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。 2007年度<柴田南雄音楽評論賞>奨励賞受賞。著書に『OHHASHI いい音をいつまでも』(創英社/三省堂書店)など。インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターおよび国立音楽大学大学院伴奏助手。

関連公演情報
メンデルスゾーン ──光のほうに
主催 : 住友生命いずみホール[一般財団法人住友生命福祉文化財団]
共催 : 大阪交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、東京混声合唱団、日本センチュリー交響楽団
後援 : 大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館、ドイツ文化センター
助成 : 文化庁文化芸術振興費補助金 劇場・音楽堂等活性化・ネットワーク強化事業(地域の中核劇場・音楽堂等活性化)独立行政法人日本芸術文化振興会、大阪府芸術文化振興事業

4公演(+11/6レクチャーご招待付)セット券(限定数)
一般 ¥24,000 フレンズ ¥19,000

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メンデルスゾーン ──光のほうに
関連公演情報
メンデルスゾーン ──光のほうに
【Vol.1】「燦々──祝典、そして南へ」
陽光降り注ぐイタリアの祝祭

2025.1/22(水) 19:00
一般 ¥6,000 フレンズ ¥5,400 U-30 ¥3,000
大阪交響楽団

トランペット序曲 op.101, MWV P2
《真夏の夜の夢》 序曲 op.21, MWV P3
交響曲 第5番 二短調 op.107, MWV N15 《宗教改革》
《カマーチョの婚礼》 序曲 op.10, MWV L5
交響曲 第4番 イ長調 op.90, MWV N16 《イタリア》

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メンデルスゾーン ──光のほうに
【Vol.2】「光輝──見いだされた耀き」
瑞々しい旋律と、“闇と光”を描く交響的カンタータ

2025.1/25(土) 16:00
一般 ¥7,500 フレンズ ¥6,700 U-30 ¥3,000
関西フィルハーモニー管弦楽団
周防亮介(ヴァイオリン)
森 麻季、岡田眞弥(ソプラノ)/宮里直樹(テノール)
東京混声合唱団

ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64, MWV O14
交響曲 第2番 変ロ長調 op.52, MWV A18 《讃歌》

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メンデルスゾーン ──光のほうに
【Vol.3】「救済──世を照らす祈り」
溢れる才能、深まる思想晩年のメンデルスゾーンが到達した最高傑作

2025.1/26(日) 16:00
一般 ¥7,500 フレンズ ¥6,700 U-30 ¥3,000
日本センチュリー交響楽団
エリヤ : 小森輝彦(バリトン)
田崎尚美、大沢結衣(ソプラノ)/清水華澄、志村美土里(アルト)
城 宏憲、小沼俊太郎(テノール)/牧山 亮、下西祐斗(バリトン)
東京混声合唱団

オラトリオ《エリヤ》 op.70, MWV A25

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メンデルスゾーン ──光のほうに
【Vol.4】「波濤──荒ぶる天才、北へ」
時を超えたプログラムにこめられた、天才の荒々しいエネルギー

2025.1/29(水) 19:00
一般 ¥7,000 フレンズ ¥6,300 U-30 ¥3,000
大阪フィルハーモニー交響楽団
小林愛実(ピアノ)

劇付随音楽 《アンティゴネ》 序曲 op.55, MWV M12
交響曲 第1番 ハ短調 op.11, MWV N13
ピアノ協奏曲 第2番 ニ短調 op.40, MWV O11
交響曲 第3番 イ短調 op.56, MWV N18 《スコットランド》

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メンデルスゾーン ──光のほうに<br>【Vol.4】「波濤──荒ぶる天才、北へ」
関連公演情報
〈特別企画〉レクチャー&コンサート
「邂逅──めぐりあう“時”」
人間、メンデルスゾーンの苦悩を追う

2024.11/6 (水) 19:00
一般 ¥1,500 U-30 ¥500 フレンズ ¥500

※4公演セット券購入者はご招待ロータス・カルテット/堀 朋平(お話)

シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番《四重奏断章》ハ短調 D703
フェーリクス・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第6番 へ短調 op.80
ファニー・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 変ホ長調より 第1楽章
フェーリクス・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第1番 変ホ長調 op.12

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〈特別企画〉レクチャー&コンサート<br>「邂逅──めぐりあう“時”」