シューベルトの音楽のエッセンスは、じつは前世紀の継承であり、さらには続く世紀へと受け継がれた美質でした。ほかならぬ21世紀の私たちも、今なおその偉大なる影響に浴しているのです。

楽都ウィーンは、その流れの中心地。人の内面から湧き上がるシューベルトの幻想=ファンタジーは、後期モーツァルトにつうじる音楽の源でした。また、とくに2番目のテーマや緩徐楽章にひろがる異世界のような感覚は、中期ベートーヴェンの実験をさらに掘り下げたもの。そして「音楽的な瞬間(=楽興の時)」と呼びたくなる深淵への下降は、20世紀の表現主義にすら、確かな糸でつながっています。

そう。シューベルトのあふれる“詩情”と息をのむ“深淵”は、世紀をまたぐ「ウィーン・プログラム」で聴いてこそ、ゆっくり腑に落ちてくるのではないでしょうか。そんな私たちの想いに、ウィーン生まれの貴公子ティル・フェルナーが、すばらしい構想で応じてくれました。とくに、音楽に革命を起こした「無調」時代のシェーンベルクの冒険は、シューベルトに孕まれた無限の可能性を引き出してくれるでしょう。

堀 朋平（住友生命いずみホール音楽アドバイザー）

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